第2章 物理量と単位
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2.1 物理量は, 数値×単位
数学は数を抽象的な概念として扱う
一方、現実の様々な問題では、具体的な実体を表す量を扱う
数値と単位の積で表す
160cmとは$ 160 \times \mathrm{cm}という意味
cmを160個分集めた量
物理量の大きさは、「何の何個分」という形で表され、その「何の」に相当するのが単位(unit) 単位をつけ忘れる人が多いが、これは危険な態度
探査機を制御する2つのチームが、片方はメートルやキログラム、もう片方はヤードやポンドという単位を使ったため、データ共有に失敗して、制御不能になった
例2.2 2000年3月30日、埼玉県川口市の病院で、ある患者が薬剤を過剰投与されて死亡した
薬剤80mgを処方するつもりだったが、80アンプルと勘違いされ、看護師が800mgの薬剤を投与した
複数の物理量は単位を揃えないと足したり引いたり大きさを比べたりできない
$ \mathrm{0.2m + 1.23m = 1.43m} \qquad (2.1)
$ \mathrm{20cm + 123cm = 143cm} \qquad (2.2)
このような話を当たり前と思わずに、よく考える
まず左辺の2つの項を$ \mathrm{m}という量でくくって、$ 左辺 = (0.2+1.23)\mathrm{m}という式を立て、その括弧内を普通に数どうしの足し算で計算し、右辺の$ 1.43\mathrm mに至る
「共通する量でくくる」ところで、暗黙のうちに分配法則を逆向きに使っている 単位は単なる添え物ではなく、物理量の重要な一部
2.2 次元
どんなに頑張っても単位を揃えられない量どうしも存在する
20cmと5時間
こう考えれば、世の中の様々な物理量は「互いに単位を揃えられるかどうか」という観点で分類できる
20cmは「長さ」という次元を持つ
5時間は「時間」という次元を持つ
次元が違う量どうしは、足したり引いたり、大小を比べたりできない
2.3 単位の掛け算と割り算
単位は普通の数と同様に掛け算や割り算ができる
例2.3
隣接する2辺の長さが2mと3mであるような長方形の面積は
$ \mathrm{2m\times3m=6m^2} \qquad (2.3)
このとき結果に$ \mathrm m^2という単位が出てきたのは「面積を求めたから」というよりも、「$ \mathrm mを2回掛けたから」
例2.4
100mの距離を20秒で走る人の(平均の)速さは
$ \mathrm{\frac{100m}{20秒}=5m/秒} \qquad (2.4)
このとき、単位どうしの割り算の結果としての速さの単位「$ \mathrm{m/秒}」が出てきた
この単位の$ /という記号は、割り算の記号
「毎…」は「…という単位あたり」と同じこと
世間にはこの「毎…」や「1…あたり」を省略する悪習がある。真似してはいけない
例2.5
「日本のGDPは1人あたり約4万ドル」
1人あたり1年間あたり約4万ドル、もしくは約4万ドル/(人・年)が正しい
例2.6
「台風の中心付近の瞬間最大風速は40m」
毎秒40m、もしくは40m/秒、もしくは1秒あたり40mが正しい
例2.7
「シーベルト毎時」「シーベルト毎年」をどちらも「シーベルト」と省略してしまう報道がある
「毎時1シーベルト」は「毎年1シーベルト」の約8800倍
2.4 単位を埋め込んで計算しよう!
式(2.3)を次のように書く人が多い
$ 2\times3 = 6\mathrm m^2 \qquad (2.5)
高校の参考書もこのような記法を勧めていたり、科学者でもこう書く人がいるが、これは変だ
というのも、もしこれがOKなら「隣接する2辺の長さが2cmと3cmの長方形の面積は?」という問題にも次のように書けるはず
$ 2\times3 = 6\mathrm{cm}^2 \qquad (2.6)
式(2.5)と式(2.6)の左辺は共通なので、等号の公理から
$ \mathrm{6m^2 = 6cm^2} \qquad (2.7)
単位を持つ量の計算は、式の中に数値だけでなく単位も埋め込むべき
そうすれば誤記やつけ忘れという重大なミスを防止できる
それだけでなく、単位が計算を助けてくれることがある
例2.8
120gで600円の肉は900gでいくらか?
単位を頼りに考えると楽
$ \mathrm{\frac{600円}{120g}\times900g=\frac{600\times900}{120}\frac{円g}{g}=4500円 \qquad (2.8)}
数値は数値で計算し、単位は約分して簡単にすれば、最後に「円」という欲しかった量の単位が現れ、立式が正しかったことが裏付けられる
もしもこの問題をうっかり
$ \mathrm{\frac{120g}{600円} \times 900g = \cdots \qquad (2.9)}
とやってしまったら、最終的な単位が$ \mathrm{g^2/円}になり、何か間違っていたとわかる
例2.9
小学校で速さと道のりと時間の関係を
$ 速さ=道のり\div時間
$ 道のり=速さ\times時間
$ 時間=道のり\div速さ
これを「みはじ」という図式で覚えた人も多い
$ \frac{み}{は|じ} \qquad (2.10)
しかし、このような図式を忘れても、単位チェックすれば正しく計算できる
速さ3m/秒で5秒間だけ走るときの道のりは、単位も埋め込んで正しく計算すれば無事に距離の単位が出てくる
$ \mathrm{3\frac{m}{秒}\times5秒=15m\qquad(2.11)}
これを割り算にしたりすると変な単位が出てくる
目標とする単位が最終的に残るように立式すればよい
この方法の最大の利点は「ミスを防いでくれること」
数値だけの計算はミスしやすいが単位がそれをチェックしてくれる
仕事でのミスは大事故や大損害になりかねない
問19 以下の問を、単位を式の中に埋め込んで書け
(1) $ 5 時間で$ 500 リットルの水が出る蛇口から$ 2 時間で流れ出る水の量は?
$ \mathrm{\frac{500}{5}\frac{リットル}{時間}\times2時間}= 200リットル
(2) $ 5 時間で$ 500 リットルの水が出る蛇口から$ 4\mathrm m^3 の水を出すのにかかる時間は?
$ 4000\times\frac{5}{500}\frac{リットル\cdot時間}{リットル} = 40時間
問20 以下の問いを、単位を式の中に埋め込んで書け
2.5 無次元量
同じ次元を持つ量どうしの割り算は面白い結果になる
円の直径$ d と周長$ S は、ともに次元は「長さ」であり、数値と単位の積で表現される
ところが$ d と$ S を一つの単位に揃えた上で、$ S/d という量を計算すると、長さの単位は約分されて消え、$ 3.141592\cdotsという数だけが残る
これは円の大きさがどうであれ一定値であり、それが円周率$ \piである
この量には単位がない
単位を伴わずに数だけで表現できる量
物理量を数と単位の積で表すとき、その数は無次元量である
たとえばある長さ$ Lが$ L=15\mathrm{cm}であるとする
この両辺を$ \mathrm{cm}という量(1cm)で割ると
$ L/\mathrm{cm} = 15 \qquad (2.12)
左辺はLもcmも長さという次元の量であり、したがって、その割り算は無次元量になる
したがって右辺の15は無次元量である
式(2.12)は見慣れないかもしれないが、これは国際的にも認められた、立派な表記法
2.6 国際単位系(SI)
それぞれ次元に対応する単位を定めたセット
科学の世界では一般的に、国際単位系と呼ばれる、国際的に合意決定された単位系を優先的に使う 長さの単位: m(メートル)
質量の単位: kg(キログラム)
時間の単位: s(秒)
電流の単位: A(アンペア)
温度の単位: K(ケルビン)
物質量(個数)の単位: mol(モル)
光量の単位: cd(カンデラ)
SI基本単位の積や商で、様々な量の単位を作る
国際単位系は、SI基本単位とSI組立単位、そしてそれらの記法や用法に関するルールからなる
$ \mathrm{ms^{-1}}は$ \mathrm{m/s}と表記してもよい
ただし$ /の右側に複数の来る場合は注意
分母・分子をはっきりさせる$ \mathrm{kg/(m^2s), \frac{kg}{m^2s}, kg\ m^{-2}s^{-1}}
$ \mathrm{kg/m^2/s}と書く人もいるが、これも紛らわしいので禁じられている
SI組み立て単位で、積の順序は任意
$ \mathrm{kg\ m\ s^{-2}}を$ \mathrm{m\ kg\ s^{-2}}と書いてもOK
国際単位系の単位ではないが、慣習的によく使われる単位
min(minute)
$ \mathrm{1min = 60s}
h(hour)
$ \mathrm{1h = 60min = 3600s}
a(アール)
$ \mathrm{1a=100m^2}
Lまたは$ \ell
$ \mathrm{1L = 10^{-3}m^3}
cc(cubic centimeter)
$ \mathrm{1cc=1cm^3}
t(トン)
$ \mathrm{1t=10^3kg}
巨大な数値や微小な数値は、位取りのためにたくさんの$ 0が必要で煩雑
$ \mathrm{1000m}を$ \mathrm{1km}
$ \mathrm{0.01m}を$ \mathrm{1cm}
$ 10^{15}: $ \mathrm{P}ペタ
$ 10^{12}: $ \mathrm{T}テラ
$ 10^{9}: $ \mathrm{G}ギガ
$ 10^{6}: $ \mathrm{M}メガ
$ 10^{3}: $ \mathrm{k}キロ
$ 10^{2}: $ \mathrm{h}ヘクト
$ 10^{-15}: $ \mathrm{f}フェムト
$ 10^{-12}: $ \mathrm{p}ピコ
$ 10^{-9}: $ \mathrm{n}ナノ
$ 10^{-6}: $ \mathrm{\mu}マイクロ
$ 10^{-3}: $ \mathrm{m}ミリ
$ 10^{-2}: $ \mathrm{c}センチ
$ 10^{-1}: $ \mathrm{d}デシ
$ \mathrm{P}$ \ mathrm{p}$ \mathrm{M}$ \mathrm{m}が紛らわしいが「大文字は巨大な数を表す」と覚えればよい
例2.10
$ \mathrm{\mu m}マイクロメートル
$ \mathrm{ps}ピコ秒
接頭辞は単体では単位にはならない
ダメな例: 「50キロ」「2センチ」「5ミリ」
科学的・公的な記録・連絡・発表の中では慎む
hやmは時間やメートルと被るが、何らかの単位を伴って最初の文字として現れることを意識すれば、これらを混同することはない
質量だけは例外的に接頭辞のついた$ \mathrm{kg}がSI基本単位になっている
接頭辞の後に2条や3乗のついた単位がくるときは要注意
接頭辞は直後に来る単位とまず結びつく
そして、単位の2乗や3乗はその「接頭辞つきの単位」についてかかる
$ \mathrm{km^2}は$ \mathrm{(km)^2}であり$ \mathrm{k(m^2)}ではない
問23 以下の量を書き換えよ
(1) $ \mathrm{1m}を$ \mathrm{km}で
$ \mathrm{0.001km}
(2) $ \mathrm{1km}を$ \mathrm{m}で
$ \mathrm{1000m}
(3) $ \mathrm{1cm}を$ \mathrm{m}で
$ \mathrm{0.01m}
(4) $ \mathrm{1m^2}を$ \mathrm{km^2}で
$ \mathrm{1m^2 = 1 \times (10^{-3}km)^2 = 10^{-6}km^2}
(5) $ \mathrm{1km^2}を$ \mathrm{m^2}で
$ \mathrm{1km^2 = 1\times(10^3m)^2= 10^6m^2}
(6) $ \mathrm{1cm^2}を$ \mathrm{m^2}で
$ \mathrm{1cm^2 = 1 \times (10^{-2}m)^2 = 10^{-4}m^2}
(7) $ \mathrm{1m^3}を$ \mathrm{km^3}で
$ \mathrm{0.001km^3}
(8) $ \mathrm{1km^3}を$ \mathrm{m^3}で
$ \mathrm{1km^3 = 1 \times (10^3m)^3 = 10^9m^3}
(9) $ \mathrm{1cm^3}を$ \mathrm{m^3}で
$ \mathrm{1cm^3 = 1 \times (10^{-2}m)^3 = 10^{-6}m^3}
(10) $ \mathrm{1dm^3}を$ \mathrm{m^3}で
$ \mathrm{1dm^3 = 1 \times (10^{-1}m)^3 = 10^{-3}m^3}
(11) $ \mathrm{1dL}を$ \mathrm{m^3}で
$ \mathrm{0.0001m}
(12) $ \mathrm{1\mu m}を$ \mathrm mで
$ \mathrm{0.000001m}
(13) $ \mathrm{1\mu m}を$ \mathrm{nm}で
$ \mathrm{1000nm}
(14) $ \mathrm{1mg}を$ \mathrm{kg}で
$ \mathrm{0.000001g}
(15) $ \mathrm{1km^2}を$ \mathrm{ha}で
$ \mathrm{100ha}
問24 以下の量を書き換えよ
(1) $ \mathrm{0.009km^2}を$ \mathrm{m^2}で
$ \mathrm{0.009km^2 = 9\times10^3m^2}
(2) $ \mathrm{0.00003km^3} を$ \mathrm m^3で
$ \mathrm{0.00003km^3 = 3\times10^4m^3}
問25 以下の各小問内で、上げられた2つの単位が互いに等しいことを示せ
(1) $ \mathrm{mL}と$ \mathrm{cm^3}
$ \mathrm{1mL} = \mathrm{1 \times 10^{-3} \times 10^{-3}m^3 = 10^{-6}m^3}
$ \mathrm{1cm^3 = 1 \times (10^{-2}m)^3 = 10^{-6}m^3}
(2) $ \mathrm{L}と$ \mathrm{dm^3}
$ \mathrm{1L = 1 \times 10^{-3}m^3}
$ \mathrm{1dm^3 = 1 \times (10^{-1}m)^3 = 10^{-3}m^3}
(3) $ \mathrm{kL}と$ \mathrm m^3
$ \mathrm{1kL = 1 \times 10^3 \times 10^{-3}m^3 = 1m^3}
(4) $ \mathrm{Gt}と$ \mathrm{Pg}
$ \mathrm{1Gt = 1 \times 10^9 \times 10^3kg = 10^{15}g}
$ \mathrm{1Pg = 10^{15}g}
注: もともと$ \mathrm Lは「質量1kgの水の体積」と定義されていたが、水は温度や圧力によって体積を微妙に変えるので、体積の単位としてふさわしくない。
現在は$ \mathrm{L}は$ \mathrm{10^{-3}m^3}のことであると再定義され、なおかつ、古い定義と紛らわしいので、$ \mathrm Lはなるべく使わず、かわりに$ \mathrm{dm^3}と言おうというのが、国際単位系の立場
他の国際単位系の約束
変数や定数を表すアルファベットは斜体表記せよ
特定の関数を表すアルファベットは立体表記せよ
単位を表すアルファベrっとは立体表記せよ
数値と単位の間には半角スペースをあけよ
組み立て単位は、単位どうしの間に半角スペースをあけよ
接頭辞と単位の間にはスペースをあけるな
最後の2つで$ \mathrm{1ms}(ミリ秒)と$ \mathrm{1m\ s}(メートル秒)が区別できる
これらのルールは日本では国内規格(JIS規格)にもなっている
国内外を問わず、科学技術文書はこのような表記を使う
2.7 単位の換算
例2.12 $ \mathrm{7.5\ km\ h^{-1}}という量を$ \mathrm{m\ s^{-1}}という単位に換算する
$ \mathrm{7.5km\ h^{-1}=7.5\frac{km}{h} = 7.5 \times \frac{1000m}{3600s}=2.08\cdots m\ s^{-1} \fallingdotseq 2.1m\ s^{-1} \qquad (2.13)}
7.5の有効数字は2桁と判断あされるので、結果も有効数字2桁にした
例2.13 $ \mathrm{2.0\ g/s}という量を、$ \mathrm{kg/h}という単位でに換算
$ \mathrm{2.0g/s = 2.0\frac{g}{s}=2.0\frac{10^{-3}kg}{(1/3600)h}=2.0\times\frac{3600}{1000}kg/h=2.0\times3.6kg/h=7.2kg/h \qquad (2.14)}
このように単位の換算は機械的にできる
組立単位を構成する各単位をそれぞれ別の単位に換算し、そこで出てきた係数を計算すればよい
このやり方がよくわからない人にはかわりに次の方法を勧める
$ \mathrm{7.5\frac{km}{h}} \qquad (2.15)
$ =\mathrm{7.5\frac{km}{h}\frac{1000m}{km}\frac{h}{3600s}} \qquad (2.16)
$ =\mathrm{7.5\frac{1000}{3600}\frac{km}{h}\frac{m}{km}\frac{h}{s}} \qquad (2.17)
$ \mathrm{=\frac{75}{36}\frac{m}{s}=2.08\cdots m\ s^{-1} \qquad(2.18)}
$ \mathrm{\fallingdotseq 2.1m\ s^{-1} \qquad (2.19)}
ここで式(2.15)から式(2.16)に行く時に
$ \mathrm{\frac{1000m}{km}と\frac{h}{3600s}\qquad(2.20)}
をかけているが、これらは両方とも$ 1
これらの$ 1は単位を持たぬ量(無次元量)
$ 1を掛けても、掛けられた量は何も変化しない
そこで、式(2.20)のような「$ 1と等しい量」を自由にどんどん掛けて、消し去りたい単位を約分していく
物理量を実際の現象と結びつけて把握する習慣をつける
問26 上で述べた、$ 1を掛けていく方法で、例2.13の単位換算をやり直せ
$ \mathrm{2.0 g/s = 2.0\frac{g}{s}\frac{1kg}{1000g}\frac{3600s}{1h}=2\frac{3600}{1000}\frac{kg}{h}=7.2kg/h}
ところで、物質の量は、多くの場合は質量で表すが(「質量保存の法則」があるから)、体積で表すこともある $ \mathrm{3tの水=3m^3の水\qquad(2.21)}
と言ってよい。だからといって
$ \mathrm{3t=3m^3\qquad(2.22)}
というのは間違い。
式(2.21)が成り立つのは、水の密度がほぼ一定だから
密度が一定であれば質量と堆積は比例するから、どちらを使っても実用上は構わない
2.8 力の単位
理系はどんな分野でも力やエネルギーの概念が必要
質量$ mの物体が力$ Fを受けたとき、物体の速度の変化率、つまり加速度(速度の変化を時間で割ったもの)を$ aとすると
$ F=ma\qquad(2.23)
この式は、本書の他の多くの数式とは根本的に性格が異なる
本書の多くの数式は、定義や公理か、それらをもとに導出される定理か、それらをっ用いた計算式
ところが式(2.23)はそのいずれでもない
その式の根拠は、公理でも論理でもなく、実験事実
「なぜ成り立つのかは誰にもわからないが、成り立つと認めると、様々な自然現象のつじつまが合う」という式
式(2.23)は中学理科や高校物理基礎で学ぶkが、全ての科学で最も大切な常識の一つ
科学の数式で出てくる記号は、その量の頭文字から取られることが多い
$ F: force
$ m: mass
$ a: acceleration
いま、質量が$ m=\mathrm{2.0\ kg}の物体が、加速度$ a=\mathrm{3.0\ m\ s^{-2}}で動いている時に、その物体にかかる力は、式(2.23)より
$ F=\mathrm{2.0\ kg \times 3.0\ m\ s^{-2}=6.0\ kg\ m\ s^{-2}}
ここで力が「$ \mathrm{kg\ m\ s^{-2}}」という単位で表されたことに注意
これが国際単位系における力の単位
この単位はよく出てくるので$ \mathrm N(ニュートン)という別名がついている $ \mathrm{N:=kg\ m\ s^{-2}\qquad(2.24)}
重さと質量の違い
重さ
重力は力の一種
だから重さは力の単位で表すのが科学的には正しい
重さは場所によって変わる
質量
同じ物体の質量は不変
もう少し丁寧に
質量
$ F=maによると、同じ大きさのちから$ Fを質量の違う2つの物体のそれぞれにかけたとき、質量$ mが大きい物ほど加速度$ aは小さいし、$ mが小さいほど$ aは大きいことがわかる
つまり質量$ mは「速度の変えにくさ」を表す
加速度は速度が単位時間あたりにどれだけ変化するか、という量であることに注意
それは無重力空間でも変わらない
国際宇宙ステーションの中に1kgの物体と10kgの物体の2つをまず静止状態で浮かせて、次にそれらを同じ力で同じ時間だけ押すと、1kgの物体の方が速く飛んでいくだろう
重さ
式(2.23)とは別の重要な物理法則が教えてくれる
それは「物体どうしには、互いに引き合う力が生じ、その大きさは、各物体の質量の積に比例し、距離の2乗に反比例する」という法則
そのような力のことを重力という
つまり重さは、その物体の質量と地球の質量の積に比例し、地球半径の2乗に反比例する
地球質量と地球半径はほぼ一定なので、「地表限定」の条件下では、重さは物体の質量だけで決まる
特に1kgの物体の重さは地表上のどこでも約9.8Nでほぼ変わらないので「1kgの物体の地上での重さ」を力の単位としてもよかろう
そう定義された力の単位のことを$ \mathrm{kgf}という($ \mathrm{kg}重ともいう)
正確な定義
$ \mathrm{1\ kgf:=9.80665\ N \qquad (2.25)}
実際、土木や建築等の工学では力をkgfであらあわす事が多い
しかし、kgfは国際単位系の単位ではないので、科学ではkgfを使うことは避ける方がよい
世の中では往々にして重さの単位kgfのfをが略されて、本来は質量の単位であるkgと混同される事が多い
日常生活では誤記してもそんなには困らないが、科学の世界では明確に区別せねばならない
2.9 エネルギー, 圧力, 仕事率の単位
物体に力をかけて移動させるとき、力と、その力の方向に動いた距離との積
仕事と等価な量(仕事に形を変えることができる量)のこと
ざっくり言えば「$ 仕事=力\times距離」
国際単位系では、仕事の単位は$ \mathrm J(ジュール)
仕事をその単位である$ \mathrm Jで置き換え、力をその単位である$ \mathrm Nで置き換え、距離をその単位である$ \mathrm mで置き換えれば
$ \mathrm{J:=N\ m\qquad(2.26)}
となる(定義)
エネルギーは仕事と等価な量なので、エネルギーの単位は仕事と同じ単位(SIではJ)
面に一様に力がかかるとき、その力を面積で割ったもの
ざっくり言えば「$ 圧力=力/面積」
国際単位系では、圧力の単位は$ \mathrm{Pa}(パスカル)
圧力を$ \mathrm{Pa}、力を$ \mathrm N、面積を$ \mathrm m^2で置き換えれば
$ \mathrm{Pa:=N/m^2=N\ m^{-2} \qquad (2.27)}
ある時間内になされた仕事や、出入りした熱や、エネルギーの増減量を、その時間で割ったもの
ざっくり言えば「$ 仕事率=仕事/時間」
国際単位系では、仕事率の単位は$ \mathrm W(ワット)
仕事率を$ \mathrm W、仕事を$ \mathrm J、時間を$ \mathrm sで置き換えれば
$ \mathrm{W:=J/s=J\ s^{-1} \qquad (2.28)}
よくある質問: 電力の単位では?
$ \mathrm{W=V \times A}は正しい式だが、$ \mathrm Wの定義ではない
$ \mathrm V(ボルト)は電気的なエネルギーを電荷量で割ったもの
$ \mathrm{V = J/C}
$ \mathrm A(アンペア)は電流の単位であり、電流とは、ある場所を通過する電荷量を時間で割ったもの
$ \mathrm{A = C/s}
$ \mathrm{W = V \times A = (J/C) \times (C/s) = J/s = W}
問32 $ \mathrm{J, Pa, W}をそれぞれSI基本単位($ \mathrm{kg, m, s})の組み合わせで表わせ
式(2.26)の右辺の$ \mathrm Nに式(2.24)を代入すると
$ \mathrm{J = kg\ m\ s^{-2}\ m = kg\ m^2\ s^{-2}\qquad (2.37)}
式(2.27)の右辺の$ \mathrm Nに式(2.24)を代入すると
$ \mathrm{Pa = kg\ m\ s^{-2}/m^2=kg\ m^{-1}\ s^{-2} \qquad(2.38)}
式(2.28)の右辺の$ \mathrm Jに式(2.37)を代入すると
$ \mathrm{W=kg\ m^2\ s^{-2}/s = kg\ m^2\ s^{-3} \qquad (2.39)}
圧力の単位にatm(気圧)というのがある
$ \mathrm{1\ atm := 1013.25\ hPa}
atmosphereの略
1atmを1気圧ともいう
高校の化学や物理で学んだように、理想気体の圧力$ P、体積$ V、モル数$ n、絶対温度$ T、気体定数$ Rの間には、$ PV=nRTという関係が成り立つ(理想気体の状態方程式) また$ R=8.3145\ \mathrm{J\ mol^{-1}K^{-1}}
エネルギーの単位にカロリー(cal)というものもある 定義$ \mathrm{1\ cal:=4.184\ J}
記憶せよ
もともと1calは「質量1gの水の温度を1℃上げるのに必要な熱量」と定義されていたが、それは条件次第で微妙に異なるので、今はJとの関係で定義されている
2.10 dimension check
例2.14
すなわち、質量$ mの物体が速さ$ vで移動しているとき、その物体の運動エネルギー$ Kは次式で定義される
$ K:=\frac{1}{2}m\ v^2 \qquad (2.29)
この両辺の単位を国際単位系で考えよう
$ \frac{1}{2}は無次元量なので単位なし
$ mの単位は$ \mathrm{kg}
$ v^2の単位は$ \mathrm{(m\ s^{-1})^2 = m^2\ s^{-2}}
したがって右辺の単位は$ \mathrm{kg\ m^2\ s^{-2}}
これは$ \mathrm J
左辺$ Kは運動「エネルギー」だから、当然$ \mathrm Jで表現できるはずの量
辻褄が合っている
等式の両辺は、互いに同じ物理量を表すのだから、同じ単位で表せる(次元が一致している)はず
ところが何かミスをすると、左辺と右辺で単位は一致しなくなる事が多い
このことは、その式が正しくできているかどうかの検算に使える
単位を式に埋め込んで計算すれば、結果t系にdimension checkにもなる
問38 半径$ rの球の表面積$ Sと体積$ Vはそれぞれ
$ S=4\pi r^2 \qquad (2.30)
$ V=\frac{4}{3}\pi r^3 \qquad(2.31)
逆に覚えている人にdimension checkを使って間違いを教えるにはどう言えばよいか
$ rは半径だからSI基本単位で表すと$ m
$ m^2は面積、$ m^3は体積を表す
2.11 例外!
「物理量は数値と単位の積」と述べたが、そうではない場合が存在する
もし物理量が「数値と単位の積」なら、その「数値」が$ 0のときにはその物理量は$ 0
たとえば$ 0\ \mathrm mは長さが$ 0(無い)ということ
「数値と単位の積」である物理量が$ 0の場合、単位をつける必要はない
どんなものも$ 0倍したら$ 0になるので、$ 0に何かの単位をつけても$ 0になる
$ 0\ \mathrm mは$ 0\ \mathrm{cm}や$ 0\ \mathrm{km}でもあるので、単位は無意味
すると、「数値が$ 0でも物理量が$ 0にならない場合」は「数値と単位の積」ではない
例2.15
温度はそもそも、分子の平均運動エネルギーに非礼するような物理量であり、その単位としてK(ケルビン)が使われる 当然、分子の平均運動エネルギーが$ 0のときの温度は$ \mathrm{0K}
ところが、温度を摂氏で表すと、$ 0℃のときは$ \mathrm{273K}であり、$ 0\mathrm Kではない
つまり、温度が0℃のときであっても「温度は$ 0」ではない
つまり、摂氏で表された温度は「数値と単位の積」ではない
問39 0℃は273Kである。つまり、
$ \mathrm{0^\circ C = 273K \qquad (2.32)}
である。ところがこの両辺を2倍すると
$ \mathrm{0^\circ C = 546K \qquad (2.33)}
となってしまう。この2つの式に式(1.4)を使うと
$ \mathrm{273K = 546K\qquad (2.34)}
となってしまう。どこでどう間違ったのか
式(2.32)から式(2.33)にいくとくに、左辺を
$ \mathrm{2\times 0^\circ C = 0^\circ C \qquad (2.40)}
と変形したのが間違い。ここでは暗黙のうちに
$ \mathrm{2\times(0^\circ C)=(2\times0)^\circ C=0^\circ C \qquad (2.41)}
という変形をしているが、最初の変形で積の結合法則(式(1.22))を使っている
しかし、$ 0^\circ \mathrm Cは$ 0 \times ^\circ \mathrm Cではない(積ではない)から、積の結合法則を使ってはならない
例2.16 $ \mathrm{pH} は、水溶液の中の水素イオンの濃度$ [\mathrm H^+] の指標であり、次式で定義される
$ \mathrm{pH:=-\log_{10}\frac{[H^+]}{mol\ L^{-1}}\qquad (2.35)}
問40
(1) 次式を示せ
$ \mathrm{[H^+]=10^{-pH}mol\ L^{-1} \qquad (2.36)}
式(2.35)の両辺に$ (-1)をかける
$ \mathrm{-pH=\log_{10}\frac{[H^+]}{mol\ L^{-1}}}
対数の定義
$ \mathrm{10^{-pH}=\frac{[H^+]}{mol\ L^{-1}} }
(2) $ \mathrm{pH=0}の水溶液の水素イオン濃度は?
式(2.36)より$ \mathrm{1\ mol\ L^{-1}}
(3) $ \mathrm{pH}が$ -1の水溶液の水素イオン濃度は?
式(2.36)より$ \mathrm{10\ mol\ L^{-1}}
(4) 水素イオン濃度が$ \mathrm{0.005mol\ L^{-1}}のときpHは?
$ \mathrm{pH} \approx 2.3
(5)$ \mathrm{pH=5.6}のとき、水素イオン濃度は中性($ \mathrm{pH=7})のときの何倍か?
$ \mathrm{pH=5.6} のとき、$ \mathrm{[H^+]=10^{-5.6}mol\ L^{-1}}
$ \mathrm{pH=7} のとき、$ \mathrm{[H^+]=10^{-7}mol\ L^{-1}}
前者を後者で割ると$ 10^{-5.6}/10^{-7} = 10^{1.4} \approx 25.1(倍)
(6) $ \mathrm{pH=5.0}の塩酸と、$ \mathrm{pH=3.0}の塩酸を、等量、混ぜ合わせたら、$ \mathrm{pH}はどのくらいになるか?ただし塩酸はすべて解離するものとする。
2つの塩酸の体積をそれぞれ$ x\ \mathrm Lとする
$ [\mathrm{H^+}] の物質量
$ \mathrm{pH=5.0}の液には$ 10^{-5}\ x\ \mathrm{mol}
$ \mathrm{pH=3.0}の液には$ 10^{-3}\ x\ \mathrm{mol}
2つの塩酸を混ぜ合わせた時、$ (10^{-5}+10^{-3})x\ \mathrm{mol}で溶液の体積は$ 2x\ \mathrm L
$ \mathrm H^+の濃度
$ \frac{(10^{-5}+10^{-3})x\ \mathrm{mol}}{2x \mathrm L} = \frac{10^{-5}+10^{-3}}{2}\mathrm{mol\ L^{-1}} = 5.05 \times 10^{-4}\ \mathrm{mol\ L^{-1}}
したがって
$ \mathrm{pH = -\log_{10}(5.05\times10^{-4})\approx 3.3}
このように℃やpHといった単位で表された量は「数値と単位の積」ではない
このような変な単位は、単位同士の掛け算、割り算、約分はできないからそれを利用した単位換算法も使えない
式(2.12)のような表現も、dimension checkも使えない
このような「変な単位」のからむ計算や変換は、面倒であっても「数値と単位の積」に書き換えて処理する方が良い場合が多い
例えば℃で表された温度は$ \mathrm Kで、pHで表された水素イオン濃度は$ \mathrm{mol\ L^{-1}}で書き換える